「あかりをつけましょぼんぼりにぃ〜」

タニシは歌が下手だ。
声はいい。
ものすごいい。
とてもよく通るいい声をしている。
しかし音感が無い。
絶望的に無い。
そして音痴というのは音痴故に自分が音痴であることに気付いていないもので、タニシももれなくその類だった。
彼は歌が好きだ。
何かにつけて歌を口ずさむ。
最近カラオケに興味を示し始めた。
どうしたものかと困っている。

さてそんな彼が調子外れに歌いながら作っている物は、本人に言わせると「雛飾り」である。
確かに今日は雛祭りの日だ。
起きるなり「リッちゃん、雛祭りやらなきゃ!」とか言われた。
雛飾りどこだとせっつかれて、私は「物置だ」と答えた。
しかしタニシが意気揚々と持ち出し、楽しそうに飾り付けているそれはごめんどう見てもクリスマスツリーだ。
中途半端にぼんぼりは見付けることができたらしく、ほのかに光るぼんぼりの間で、ツリーがチカチカと点滅している。
なんだこの光景。

「リッちゃん、五人囃子これ?」

タニシが出してみせたのは、スノーマンの楽隊だった。
確かに五人組である。
私はもうめんどくさくなってなげやりに頷いた。

「タニシさあ」
「何?」
「雛祭り、やったことあんの?」
「無いよ。うち女の子いなかったもん」

思った通りの答えが返ってきた。
話を聞いていると、タニシが生きていた時代、雛祭りの風習自体はあったらしい。
が、彼自身はそれをやったことが無いのだ。
おかげで我が家のリビングの一角には、珍妙な空間が完成した。

「リッちゃん、どう?」
「どうと言われてもな・・・」
「何か変?」
「何かとか何がとか言うか」
「俺はなかなか綺麗にできたと思うんだけどなあ」
「・・・タニシがそれでいいならいいんでないか」
「へへー」
「でもこれ明日には片付けるんだよ」
「え、なんで!」
「じゃないと私が行き遅れるから」

せっかくの雛飾り(?)なのにと愕然とするタニシに、私は説明してやった。
雛飾りを早く片付けないと、そこの娘は嫁に行き遅れる。
早く片付く=早く嫁に行く、という意らしい。
それを聞いてタニシは笑った。

「なあんだ、大丈夫だよ」
「何が」
「リッちゃんは俺がもらうから」

すごく当たり前にサラリとタニシは言った。
私は手近にあった雑誌を手に取り、顔面直撃コースでタニシに投げつけた。
タニシは「げぶっ」とか変な声を上げてぶっ倒れた。

「なんでーなんでー!」
「アホか。あんた幽霊でしょーが」
「なんでー!幽霊でもなんでももらうもん!」
「アホだ」

タニシはキーキー抗議を続ける。
私は呆れて彼に背を向ける。
タニシの言葉は、お子様用の白酒よりも甘い。
その甘さに染まった頬を見られぬよう、呆れた風を装って背を向ける。

時計がお茶の時間を知らせた。


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20060225 煙草
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